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経営の美学-日本企業の新しい型と理を求めて

(編)野中郁次郎 嶋口充輝
価値創造フォーラム21

まえがき-新たなる経営の美学を求めて

4、「型」を導く

絶対価値の人間的原理を基軸としつつ市場においても成功を収めている優れた企業には、それを実現するための最も理想的な行動プロセス、すなわち基本となる「型」が共有されている。型とは、知を生み出すためのモードであり、理想的な行動プログラムないしクリエーティブ・ルーチンといってもよい。優れた企業を観察してみると、主観的で科学的な把握が困難な人間的要素を組織内で共有化していくには、存在論・理想論だけではなく、何らかの型をしっかり確立することが有効のようである。

型は固定したものではなく、状況に応じて自在に変化する柔らかさを持っている。「守・破・離」という言葉に表されるように、修得された型は、より優れた型を導く基本形となる。「温故知新」に示されるように、型を通じて古きをたずね、そこに絶えざる革新的な知を新たに生み出していくのである。このような型を軸にした連続プロセスを先導するのがトップであり、そのリーダーシップのもとで優れた型を組織の全員が共有し、自らの存在意義を自覚し、次の企業発展につなげていくのである。

このように、企業が創業時の企業家精神や遺伝子を継承し、活力を維持していくためには、行動規範としての、この優れた型が何よりも必要だが、そこには前提として、企業の「存在意義(ビジョン)」と知識の相互作用をもたらす「場」の明確化が不可欠になる。その意味で、ビジョン、場、型の三つは企業活動の実践を通じて持続的に連動していかねばならない。

価値創造につながるイノベーティブな組織をつくりあげていくには、知識の形式知化による共有・蓄積だけではなく、常に新しい知識が生まれるダイナミックな正のスパイラル運動を促進し、知を増幅していく状況をつくりだすことが必要なのは言うまでもない。また、その持続には、関係性の円滑さを保つために多少の遊びと長期的視点があることが望ましく、特に短期的数値目標のみによって厳密な管理を推し進めることはここでの思想にそぐわない。最近、日本の企業は、このバランスを崩してしまった部分があるが、数字で把握できるのは、一部であって全てではないことを知るべきだろう。

3.知の綜合化へ

5.アートとサイエンスの融合へ